壱、女中兼副長小姓

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「みなさーん、起きてくださーい!ご飯の準備が出来ましたよ~」 一人の小柄な少女が大音声で廊下を歩く。すでに毎朝の恒例になったそれを聞いて、隊士たちがそれぞれの自室の襖を開けた。 「小夜ちゃんおはよう。今日も元気だね」 不意に掛けられた声に振り返れば、そこには年の割りに小柄な青年。 名を藤堂平助という。 茶色の髪にそれより幾分か濃い焦げ茶の瞳。人懐っこそうな面差しのある彼は、年頃の女子が見たら全員が全員「可愛い!」と絶賛するほどに童顔で美少年面であった。本人は童顔なのを気にしているようだが。 こんななりでも副長助勤。花の20歳だ。 「あ、藤堂さん!おはようございます。今日は茄子の漬物がありますよ!確かお好きでしたよね」 藤堂は少女の言葉を聞いて目を輝かせた。 「うん、大好き!うわぁうわぁ嬉しいなぁ!ありがとう」 満面の笑みを送られて、少女も嬉しそうに微笑む。 茄子の漬物が嬉しいのは本当だが、少女に自分の好みを覚えていてもらえたことの方がもっと嬉しかった。 というのを本人に言えればいいのだが、いかんせん藤堂は奥手なので言える日はきっと遠いだろう。 自分に向けられているその笑顔を眩しく思いながら、それじゃあ先に座敷で待ってるねと手を振って藤堂はその場をあとにした。  
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