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うすい影は倒れた父の肩に覆いかぶさっている。今さっきまで父の眉間の先にあったスタンガンはそこにはなく、影の主であるかもしれない男の白い手の中にあった。物珍しそうに、それをくるくると廻しながら眺めている。
どう見ても父ではない。いや自分と同じ中学生くらいに見えるその男は視線をこちらに向けると小さく白い歯を見せた。
「痛そうだね」
いつからそこに、そもそも誰、毛穴の奥から鉄砲水のように噴出す疑問を一旦床に置いて、ひとまず苦々しい笑みを返してみせる。
そういえば、どうしてこっちもスタンガンなんて手にしていたんだろう。
さっきまで抱えていたスケッチブックの束を拾い上げる。インクで真っ黒に塗りつぶされた表紙、カッターの刃をところどころに突き立てた跡。そうだ、
「捨てに行くんだった」
男は目を細めて僕を見た。静かにうなずいて僕の真後ろにある洗面所のドアの前に躍り出る。
「じゃあ捨てにいこうか、それ」
「え?」
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