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「そうか?」
貴臣はあたしに向かってちょっと微笑みかけて、本に視線を戻す。
この一瞬の微笑みすらも、客観的に見たらそりゃあもう光輝くようで、だからファンの子たちは休む暇もなくキャーキャー騒ぎ立てるもので。
あたしも貴臣もそんな外野を気にしないのが普通だ。
慣れたとかじゃなくて、最初から気にしてなかったんだ。
だって貴臣は生まれたときからこうだったから。
だけどイライラしたあたしは、もう貴臣の完璧な部分の何もかもが目障り。
何が気遣いだ…この鈍感男!
と言いたくなったけどぐっと我慢して、こう言った。
「あたし先に教室行くから」
鞄を持って立ち上がると、貴臣は少し驚いて
「もう行くのか?まだ早いだろう」
と言った。
「用事」
あたしは短く答えると貴臣に背を向けた。
「なんだよ、待てって。何の用事だ?俺も一緒に行くよ」
と立ち上がりかける貴臣を、振り返ってキッと睨んだ。
これで貴臣は付いて来ない。
…あたしにだって貴臣が知らない用事くらいあるんだから!
「あー…鬱陶しい…」
小声で呟く。
こういつもいつも一緒にいられてはたまったもんじゃない。
あたしだってたまにはひとりになりたい。
そうやってカフェテリアを後にしたけど、あたしは結局行くあてもないからなんとなく生徒会室の方に向かって歩き出した。
あたしに貴臣が知らない用事なんて、無い。
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