開戦

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 ここは、知る人ぞ知る姫路飾西高校。その校舎の四階に位置する、一年六組の教室。  坂口翔太は怒っていた。ものすごく怒っていた。 全身を小刻みに震えさせ、握り締めた拳の肉に爪が食い込み、血が垂れている。 その目線は、翔太の前に立つ女子生徒の足元に向けられていた。 無造作に湾曲した、細長い金属。粉々に砕け、散乱した、透明の破片。 「俺の、眼鏡……」 それは翔太愛用の眼鏡であった。 「俺の、眼鏡ぇぇぇぇ!」 翔太の心の中では、憤怒の炎が爆発的なスピードでその勢いを拡げながら、轟々と燃え盛っていた。 「ご、ごめんなさい」 山崎友理は、罪悪感と焦りに支配され、とっさに謝罪した。 だが、その決して小さくない声は、翔太の耳には届かなかった。 既に絶望と共に逆上している翔太には、もう周りの音など認識できない。 「許さんぞ……!」 翔太の怒りの矛先が、視線と同時に友理に向けられる。 「絶対に許さんぞ! 貴様ぁ!」 「ええぇっ!?」 そう叫ぶやいなや、翔太は友理のかけている眼鏡をうばいとり、 「だああぁぁぁ!」 力任せにそれをへし折った。 バキバキと残酷な破壊音がなり響く。 「いやぁぁぁぁ!」 友理の叫びが、静まりかえった教室にこだます。 だが、翔太は止まらなかった。 眼鏡という名の魂を砕かれた翔太の怒りは、仇の眼鏡一つ破壊するだけでは、静まるはずはなかった。 暴走した翔太は、教室に存在する眼鏡全てに牙をむいた。 比較的眼鏡をかけている生徒が多い一年六組。 しかし、翔太のターゲットはただ一人、重野に決定された。 「ぅらぁぁぁぁぁぁ!」 翔太は教室の隅にいる重野へと、超音速で跳んだ。 「だぁ!」 翔太が重野の眼鏡を取るべく、重野の顔に手を伸ばした、その瞬間。
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