真夜中のお茶会

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午前零時の鐘の音。   「あら?歌が聞こえてくるわ?」   どこか遠くから誰かが歌っている讃美歌が流れている。 誘われるように窓のほうへと足を進める。 窓を開け放つと、風と一緒に鐘の音と心地の良い歌声が体を包み込む。   「あら、なにかしら…これ」   窓の外には黒い紙に紅い蝋で付けた薔薇の刻印が押されている封筒が申し訳なさそうに置かれていた。   「私にかしら」   そっと手にとって見る。微かに薔薇の香りが漂ってくる。 恐る恐る中身を開けてみる。   "招待状"   そう紅い文字で書かれていた。 何なのかわからない。でも、体は自然に動いていた。まるで当たり前のように。 髪を整え、文字と同じくらいに紅いドレスに身を包み、真っ赤なルージュを付け、真夜中の暗闇へと出ていく。 片手には先ほどの手紙を持ち、誰に言われるでもなく、足は軽くステップを踏みながら、口は流れる賛美を口ずさみながら、風のように森の奥へと入っていく。 しばらく森の奥へと歩いていると、仄かに明かりが見えてくる。   「ここね?」   誰に聞くわけでもなく呟く。 どこからか流れている讃美歌の曲。 目の前には、テーブルの上で自身をアピールするかのように光を放っている蝋燭が一本。 その蝋燭は一本にも関わらず、強い炎を保って辺りを照らしている。 蝋燭の隣には、焼きたての香りを漂わせているクッキーの入ったバスケット。 視線をあげていくと、テーブルの真ん中には、シルクハットの帽子をかぶって、顔には仮面を付けている殿方が一人。 片手にティーポットを持って、優雅な手つきでカップに紅茶を注ぐ。 ふんわりとローズティーの香りが鼻孔を擽る。  
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