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「…俺女は…痛いか」
はは…と乾いた笑みを漏らす。
今更女なんかじゃないなんていっても説得力ない。
俺はほぼ…女になりかけてる。
心も…そして躯は女だ。
こういう事だったのか?
あの男がいってたことは。
日に日に変わっていくという事に…
「痛い…か」
ふいにポケットをまさぐる。
新井からの着信はない。
「……こういう時だけ……なんで、いないんだよ」
泣かない。泣いては駄目だ。
女になってからどうも涙腺が弱くなる。
俺は濡れた袖で素早く目元をぬぐうと少し濡れた携帯を開き、ぽちぽちとボタンを押した。
どうせ電話には出ないんだ。ならせめて最後の悪あがきでメールで……
「……ちゃんと、読んでくれたら、いいな」
“女子トイレに閉じ込められた”
「これでよし」
何がよしだ。
でも閉じ込められてるのはあっている。
俺は1回辺りに女子がいない事を耳で確認してからノックをはずしてあけようとした。が、やはり開かなかった。きっと箒かなんかの棒で出られないようにふさいだのだろう。
「性格悪…」
だから俺は暫く助けが来るまでここにいる事にした。
「寒いな」
ただでさえトイレという所は寒い。長くいたくない。
しかも頭から水を被って、早く躯を温めないと風邪をひいてしまう。それに女は躯を冷やしちゃ駄目だってきいた。
俺の躯は女だし、何か温かいもの……
小さな個室をぐるりと見渡すが温かくなるものなど当然のようにない。あとは天井を見上げるだけ。
「……」
溜息が漏れる。そしてタイル状の壁に背をつけ、ずるずると座って蹲る。
この際もう汚れているのだから、汚いなんていってられない。
「寒い」
自分で自分を抱きしめる。
腕をさする。そうすれば少しは温かくなったような気がしてきた。
「新井……」
お願いだから……無視…しないでくれよ…
寒気と突然の眠気に襲われた俺は、そのままゆっくりと目を閉じるのだった…
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