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「トーントン」
「……」
わざとらしくノックする。俺は息を押し殺しながら両手で口を塞いだ。
「宮内さんー、あれ?違うのぉ」
「うん○かもよ」
「えーやだぁ。きったなぁーい」
「うん確かに臭うかも」
耳を塞ぎたくなった。ある事ない事をペラペラと。早く……早くいなくなれ……消えろ…
しかしこういう時に限って女はしつこかった。無視しても無視しなくても…なんとかこっちから引っ張り出そうとしてくる。そんな無駄な行動に使うくらいなら違う事に使えばいいのに。
人の為になる事とか……なんで、こう…一人の女子に目をつけていたぶるのが大好きなのだろう……
そんな刺激が欲しいなら自分がそうなればいいのに…
「あ。やっぱりいた。宮内さん発見」
「!」
頭上から声がして上を向くと器用によじ登った一人の女子が天井から俺を見下ろし、にっとう。
俺は心の底から思った。せめてよじ登れず覗かれないくらいの高さなら……心の底から安堵していた事だろう…
「…」
まさかこのまま中へ突入…なんてしないよな。
いや…彼女達ならありえる。しかし彼女達はしなかった。上から覗いていた彼女もやがて飽きたのか覗くのをやめて、タイル状の地面に着地する。そして手をパンパンとはらうと手を洗っていた。
ドア越から聞こえる水音は心地よいがそれでもまだ彼女達がここにいる事に絶望する。それよりも手を洗うにしたって長すぎる。
バシャバシャ…ザー
何かに水を入れる音。プラスチックの容器に水を入れた時の叩きつける音…バケツだろうか?
(バケツ…?なんの為に)
その時になって、俺はっ、と上を向いた。それと同時に蛇口が閉まる。
そして勢いよく上からバケツと中身を一緒にぶちまけてきた。
「っ!?」
頭に大きく水を被る。バケツが逆さに顔を被って視界が見えなかった。なんとなくわかっていて覚悟はしていたけれどそれでも心臓がさっきよりも更にバグバグといっている。
「無視すんじゃねぇよ。俺女とかマジで痛いんですけど」
「これで少しは綺麗になったんじゃない?」
「ドブ鼠の間違いっしょ」
「きゃはは」
苛立ちある笑い声を残し今度こそ彼女達は満足したのかこの場を後にする。
立ち尽くした俺はバケツをどかし、地面に滴り落ちる水滴を凝視した。
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