薔薇の似合う女

36/37
前へ
/99ページ
次へ
    流れるシャワーの音でかき消されながら、私は声を出し泣いた。     寝ても、覚めても、頭から離れないのは、渚の声と、バラのように散らばった血。       私には夢があるの。 小さな家で、庭で育った野菜を、コトコト煮込み、味見をするの。 美味しいと言って笑顔になる人を待ちわびながら、コトコト…コトコト。   そして時間がくると、家の扉が開く。 「ママ、ただいまー!」 そんな元気な声が聞こえて、また一緒にコトコト煮込むの。   子供と一緒に、また味見をしながらコトコト…コトコト。   そしてまたドアが開く。 そこには私の愛する旦那様が。     料理を机に並べ、皆で囲むの。 笑いの絶えない、そんな家族。   些細な幸せ…。 小さな夢…。   私には叶いそうもない、大きな夢…。  
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

674人が本棚に入れています
本棚に追加