第1部  春風

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単3電池と何かの蓋らしき小型のプラスチック板。 何だか急に嫌な予感がして、再び目覚ましに目を向けると時間はまだ7時10分。 それは、1分経っても7時10分を表示していて、恐らく、いや十中八九、1時間経っても、7時10分と表示され続けるのだろう。 「……あぁぁぁあああ!!」 悲痛な叫びと共に充電器に刺さったまま携帯電話を手に取った。 ――8時15分。 「ヤバッ!! もう8時すぎてる。遅れる!!」 さっきまでの眠気は何処へやら……。飛び起きたオレは風のように階段を下っていく。 「何でもっと早く起こしてくんなかったんだよ!!」 荒々しく服を脱ぎ捨てて、制服へと手を伸ばす。 「起こしたわよ。けど、あんたが、“うっさい。起こすな。寝る”ってまた寝ちゃったんじゃない」 ……はい。全く記憶にございません。 「とりあえず、遅刻しちまうから、もう行くわ」 「ちょっと春輝。朝ごはんは?」 「もう食った。じゃ、行ってきまぁーす」 母がテーブルに視線を落とすと、そこには手付かずの朝食と一つのゴミ。 ウイダーインゼリー。いわゆる10秒メシ。 「……全くもう」  
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