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「嘘つけ。腹抱えて転げまわっとったんはどこのどいつや」
「いや……、でもあれは傑作やった。落ってった花ん中に蜂が入っとるとはな。しかも頭からほかほかの黄色い液体垂れながしとる。いや、ほんま傑作傑作」
ケタケタと腹を抱えて笑う康介。これは本気で頭にきた。手荷物を放り捨て、勢いよく康介に組み付く。今は相手が片腕ないなど関係ない。
「アホ、やかましいわ!」
「お? くるか。この康介が片手で相手してやる」
「あの時の恨み。忘れたと思っとったかコンチクショウめ!」
昔遊んだ場所で。昔から見守られてきた歳神様の前で私たちは転げ回った。顔をひっぱたき、背中にまたがり、玉を握りつぶす。
楽しかった。楽しかったと言っても喧嘩好きの暴れ者ではなく、幼い頃に戻ったようなものだ。
茅で葺かれた苔むした屋根に、緩やかな曲線を描く流造の本殿。その前の石段の上に私たちは腰をかけていた。支給された腕時計の針は正午を指している。
「お前、何かあったやろ」
「特別攻撃隊ってのがな」
康介が少し目を見開いた。
「少し噂で聞いたことがあるわ。なんでも必死隊とかなんとか」
「搭乗機もろとも敵艦に体当たり」
「なら、お前もうすぐ死ぬんか」
「ま、国を守れるんや。それに選ばれてこんなに名誉なことはないで」
康介は肯定も否定もしなかった。死ねば軍神と言われても、知人が死んで行くのが辛くない訳はない。
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