204人が本棚に入れています
本棚に追加
「早いんね。もっとゆっくり出来たら良かったのに」
「まあ無理言って増やしてもらったし、普通なら認められんことや。贅沢は言えんわ」
母は少々浮かない顔をする。
「あ、これ大石さんが」
新聞紙で包まれた土産を渡す。それを受け取る母の手には、あかぎれが痛々しいほど出来ていた。
「ほんま、悪いわぁ。こちらがお世話になっとるのにこんな物まで頂いて。何かお礼せんとね」
「あ、鍋。後やっとくわ」
「ありがとう。お茶用意しとくわね」
たわしを手に取り、やりかけの鍋へ擦りつけた。井戸水が氷のようにに冷たい。
こんなもので濡らし続けていれば、あかぎれの一つや二つは簡単に出来るだろう。まったく弟の哲夫は何をやってる。
「母さん」
「ああ、和雄。お茶入っとるよ」
ちゃぶ台の上に湯気をあげる茶と、干し芋が用意してあった。芋は豊富な糖分の証拠に表面が白く粉吹いている。焼いたらさぞうまいだろう。
「これ、大石さんから?」
「そうよ、食べるもの大変やのに悪いわぁ」
食料も配給制となったこの時勢では芋一つとて貴重である。下宿での世話になっていながらここまでしてくれる。感謝してもしきれない。
「・・・・・・わかっとるよ」
最初のコメントを投稿しよう!