一話 母とふるさと

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「早いんね。もっとゆっくり出来たら良かったのに」 「まあ無理言って増やしてもらったし、普通なら認められんことや。贅沢は言えんわ」  母は少々浮かない顔をする。 「あ、これ大石さんが」  新聞紙で包まれた土産を渡す。それを受け取る母の手には、あかぎれが痛々しいほど出来ていた。 「ほんま、悪いわぁ。こちらがお世話になっとるのにこんな物まで頂いて。何かお礼せんとね」 「あ、鍋。後やっとくわ」 「ありがとう。お茶用意しとくわね」  たわしを手に取り、やりかけの鍋へ擦りつけた。井戸水が氷のようにに冷たい。  こんなもので濡らし続けていれば、あかぎれの一つや二つは簡単に出来るだろう。まったく弟の哲夫は何をやってる。 「母さん」 「ああ、和雄。お茶入っとるよ」  ちゃぶ台の上に湯気をあげる茶と、干し芋が用意してあった。芋は豊富な糖分の証拠に表面が白く粉吹いている。焼いたらさぞうまいだろう。 「これ、大石さんから?」 「そうよ、食べるもの大変やのに悪いわぁ」  食料も配給制となったこの時勢では芋一つとて貴重である。下宿での世話になっていながらここまでしてくれる。感謝してもしきれない。 「・・・・・・わかっとるよ」
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