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嬉しそうな母を横目に、私はどうしたらいいのか分からなかった 。
「ただいまー」
「あっ、兄ちゃんや。兄ちゃんが帰ってきとる」
もやもやと時間を浪費している所に、七つになったばかりの多喜と、もうすぐ十二になる哲夫が帰ってきた。
「おう多喜、元気そうやな」
「うん!」
多喜のおかっぱ頭を撫でてやると、あどけなさが抜けない顔を緩めた。
「哲夫もあほな事しとらんやろな」
「大丈夫やって。兄ちゃんこそ下宿先の人に迷惑かけとらんやろな」
「こいつめ!」
「こら、二人共しっかり挨拶しなさい」
生意気な口を叩く哲夫と小さな多喜。母さんがその二人の頭に軽く手を置いた。
「おかえりなさい」
「ん、ただいま」
布のかぶせられた裸電球。こんな田舎に空襲なんてしないだろうと思うが、それでも念のため光を外に出さないようにしている。
食卓の上には赤飯と芋という何とも豪華なもの。久しぶりに纏う着物と座敷が心を落ち着かせてくれる。
「そう言えばここって空襲大丈夫なん? 今日の朝も聞こえてきたけど」
誰よりも少ないご飯をつつく母さんに問いかける。つい先ほどの事になるが、母にはもう少ししっかり食べて欲しいと頼んだが、頑として聞いてくれなかった。
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