一話 母とふるさと

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 嬉しそうな母を横目に、私はどうしたらいいのか分からなかった 。 「ただいまー」 「あっ、兄ちゃんや。兄ちゃんが帰ってきとる」  もやもやと時間を浪費している所に、七つになったばかりの多喜と、もうすぐ十二になる哲夫が帰ってきた。 「おう多喜、元気そうやな」 「うん!」  多喜のおかっぱ頭を撫でてやると、あどけなさが抜けない顔を緩めた。 「哲夫もあほな事しとらんやろな」 「大丈夫やって。兄ちゃんこそ下宿先の人に迷惑かけとらんやろな」 「こいつめ!」 「こら、二人共しっかり挨拶しなさい」  生意気な口を叩く哲夫と小さな多喜。母さんがその二人の頭に軽く手を置いた。 「おかえりなさい」 「ん、ただいま」  布のかぶせられた裸電球。こんな田舎に空襲なんてしないだろうと思うが、それでも念のため光を外に出さないようにしている。  食卓の上には赤飯と芋という何とも豪華なもの。久しぶりに纏う着物と座敷が心を落ち着かせてくれる。 「そう言えばここって空襲大丈夫なん? 今日の朝も聞こえてきたけど」  誰よりも少ないご飯をつつく母さんに問いかける。つい先ほどの事になるが、母にはもう少ししっかり食べて欲しいと頼んだが、頑として聞いてくれなかった。
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