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「母さん。あれって」
「ええ、空襲ね。今までと比べ物にならんぐらいの規模の
「逃げなくてもいいん?」
「ここらに逃げる場所なんてないんよ。山に逃げてもいいんやけど、そう変わるとは思わんしね」
今あの場所で無数の人間が死んでいく。子供も年寄りも女性も関係なく死んでいく。
親戚一家は無事だろうか。昔よく遊んだ啓太や良子はちゃんと逃げられているのか。
もうこんな事が許されてたまるか。そうだ、私が行くのは少しでもこの事態を広めないためだ。私が行けば少しでも米軍の足かせになる。それでいい。
さっきの夢は私自身の心の迷いが見せただけのものだ。なら迷わなければいい。私は守るために死ぬ。それだけだ。
「母さん、俺が守ってみせるから」
いきなりの発言に母は少し驚いた顔をする。
「どうしたん、いきなり」
「あれを見てるとさ、なんか心が決まったっていうか、ね」
軽く返事をした母はどこか嬉しそうな悲しそうな複雑な表情をしていた。
空襲が始まって二時間程経った頃、ようやく爆発音は止んだ。上空に光の反射が見えないことから爆撃は終わったのだろう。
ひっきりなしに飛来し続けた爆撃機。どれだけの爆弾を落としていったのだろう。とにかく長かった。
空襲警報が鳴り止み、当たりに静けさが戻る。
「終わったみたいやね」
母がぼそりとつぶやいた。
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