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「それが答えてくれんかったんです。私、もう心配で心配で……」
お婆さんはうつむきながら話した。答えなかったとなると自分と同じなのかもしれない。
もしこの予想が当たっていた場合、お婆さんのお孫さんは生きて帰ることはまずないだろう。
「きっとお孫さんは立派にやってくれます」
大丈夫だとか死なないなどと無責任な事は言えない。それでもお婆さんはまた笑を浮かべた。
私はその笑顔を見ると無性に心が苦しくなるのを覚えた。
「よかった。あ、そうや、これ食べます?」
お婆さんはそう言って手元の風呂敷から干し柿を取り出してこちらへ差し出す。
私はいいんですかと一度聞き、頂いた。ねっとりとした食感と、柿特有の甘味がなんともうまい。
「私の孫も干し柿が大好きなんですよ」
嬉しそうに孫の話を続けるお婆さんを見やった。そのしわくちゃな笑顔は本当に幸せそうで、いかにこの人が孫の事を大切にしているのかがわかる。
もし孫が先に旅立ったとき、このお婆さんはどんな気持ちになるのだろう。考えただけでも悲しい事だ。私も人の事は言えないが。
『鈴蘭台、鈴蘭台に到着です』
降りる駅までの小一時間、お婆さんは途切れることなく喋り続けていた。
楽しそうに言葉を紡いでいる所を途中で切らせるのは少々心苦しいが、降りなければならない。
「ああ、これか。お前が見るんは初めてやったな」
私の視線に気が付いた康介は左腕をさする。私はそれに適当に返事を返し、境内へと歩を進めた。
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