5人が本棚に入れています
本棚に追加
結局、富樫は手の平におさまる程度の小さな木彫り人形を選んだ。
白い木肌に、明るいブラウンで髪と目が描いてあるだけの簡素なものだ。
青年は富樫に実際の値段より、少しだけ安い値を告げた。
本当は無料で譲りたいくらいなのだが、良くも悪くも日本兵は誇り高く、そうしたことは喜ばないことを、青年は知っていた。
作業でもらえるわずかな給金をこつこつ貯めたのだろう、小銭ばかりの代金を渡すと、富樫は言った。
「ついでと言っちゃあなんだが、ちょっと注文してもいいかね」
「いいですよ。なんですか?」
青年は太陽のような笑顔で応えた。
富樫は、眩しそうに目を細めると、ポケットからごわごわになった布の固まりを取り出した。
「これで、この人形に着物を作れねえかな」
青年は丁寧に布のかたまり受け取ると、それをほぐして並べた。
小さなものなら5センチもないような端切れがたくさんあった。
囚人服が赤いだけに赤が多かったが、中には花柄や千鳥も混じっていた。
収容所でこれだけ集めるには、苦労したことだろう。
「人形が小さいので、なんとかなりますよ」
青年は快く引き受けた。
その後、ちょっと肩をすくめて、
「ただ、僕は着物を縫ったことがないし、デザインも分からないので、何回か通って、そのつど見て直してもらえませんか?」
富樫はあわてた。
「いやいや、そこまでしてもらわんでもいい。そんな金はねえんだ」
ぶんぶんと手をふる富樫は、ずいぶん人が良さそうに見える。
青年はきらきらした瞳をいっそう純粋に輝かせて言った。
「いえ。これは僕からのお祝いの気持ちです。せっかくの娘さんへの贈り物じゃないですか。とことんこだわりましょう!」
思わず富樫はうなずいてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!