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少し富樫が身じろぎした。
「……悪ぃが人形、やっぱりいらねえや」
「どうしてですか?!」
「持ってたって、しょうがねえもんな」
肩の荷が下りたような、さっぱりとした言い方になった。
言いたいことが言えて、気が楽になったらしい。
富樫はしゃがみ込んで、青年のほうへ顔を寄せた。
「お前を信頼して、言うぜ。絶対他言すんなよ」
青年は釈然としない顔をしていたが、渋々うなずいた。
「俺たちは明日、脱走する。全員で、だ」
「そんな……」
青年の顔はみるみる青くなった。
脱走したら間違いなく殺されてしまう。
「確実に脱走できる方法が?」
ほんの少しの希望をこめて尋ねた。
「ない。だが、みんなで死ぬと決まったんだ」
富樫は、来週に収容所は引っ越しがあり、皆散り散りにならなければならないこと。
。
それは軍訓上、家族と別れるほど堪え難いことであること。
捕虜の身であれども、ここで蜂起すれば国に申し訳が立つことなどを説明した。
そして最後に、どうせ死ぬことは決まってたしな、と付け足した。
青年は、かあっと頭の中心が熱くなるのを感じた。
「何言ってるんですか!
死んだらおしまいなんですよ?!
どんな理屈があっても、生きてるほうがいいに決まってます!!」
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