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ちょっとの身動きも許されないほどの、厳粛なる空気が流れる薄暗い室内に、漆色の円卓があり、4人の老人がそれを囲んでいた。
ここは『名による運命決定会議室』。
4人の神が、新生児の名前に運命を与えている。
バターンと紫檀の扉が開いて、静寂が破られた。
入ってきたのは、白のローブを着た若者。
はきはきとした声が空気を震わせた。
「会議を再開してよろしいですか」
老師たちは威厳ありげに、重々しくうなずく。
すると、円卓の中央に3D映像で生まれたての赤子が現れた。
額のあたりに『剛志』という文字が、ふよふよと漂っている。
「ふむ、『剛志』とな。各々方いかがかな」
と、立派なあごひげの赤ローブの老師。
「『剛』から、『丈夫な子』でどうじゃ」
と、ロマンスグレーの髪が豊かな緑ローブの老師。
「いやいや、『志』が付いとるんだ。そのあたりを汲んでやらんか」
と、精力ありげな壮漢の紫ローブ。
「『意志の硬い子』では?」
と、鶴のように痩せた黄ローブ。
「『硬い』というのはよろしくないな……」
赤ローブがぶつぶつ言うと、
「それでは『意志の強い子』」
と、緑ローブがやり返す。
「おお、それじゃ」
「では、剛志君の運命を『意志の強い子』に決定します」
最後に白ローブの青年が高らかに宣言して、3Dは消えた。
次に現れたのは、『心愛』と付けた赤ん坊。
「な、なんと読むんじゃ」
「本当に日本人か?」
老師たちは困惑した視線を交わした。
それをうけて、白ローブの青年が書類をめくる。
「えー、読みは……。『ここあ』ですね。」
「コ、ココア?」
「あ~あれかの、甘ったるい飲料の……」
「若いやつの飲むモンは知らん。おぬしらで考えてくれ!」
自分の理解できないことはとことん無視したい最高齢の赤ローブは、鼻毛を抜き始めてしまった。
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