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--あたしは悪くない。
今年三十になるゆいは、子供のころから胸のうちでつぶやき続けていた。
ゆいは、昔から、人より飲み込みが悪くて、他人の心にうとかった。
いつも気づくと、ひとの輪から外れてしまっている。
そうやって、ひっそりとした学生時代を過ごし、二流の会社の事務員になった。
--自分で言うのもなんだけど、すごく真面目に働いたと思う。
他の人みたいに遊びにうつつを抜かすこともしなかった。
なのに、可愛がられるのは、他の人たちだった。
その上、あの人たちはとっとと結婚して退職してしまった。
どうして男は、あんなフラフラちゃらちゃらした女ばかりを好きになるんだか。
それに私は、マニュアルもきちんと守った。
マニュアル通りやらない他の人たちのほうが、そりゃあ仕事は速かったけど、それって手抜き。
なんでみんな、それを見破れないんだろう。
どうして、私が『愚鈍』の評判を授からなきゃいけないの。
私の仕事が遅いんじゃない。
彼女らが悪いことしてるのに。
いつの間にか、みな寿退社して、同期で残ったのはゆいだけになっていた。
ゆいの上司は頭を痛めている。
むろん、この、仕事が出来なくて、人付き合いも悪い、三十路女の処遇に困ってだ。
ゆいは、そのことに気づいていた。
上司だけではなく、周囲がそう思っていることを。
でも、ゆいは、このまま居座る気でいる。
--だって私は悪くない。
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