街の裏がわ

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女の眼が、きらりと光った。 状況を忘れて少女は、綺麗だと思った。 体勢を立て直した化け物が、攻撃の対象を変え、弾丸のように唸りを上げて飛びかかる。 女は両手を自然にたらし、リラックスした状態のままだ。 しかし、化け物が目前に迫った瞬間、女の片足が上がった。 その動きは、バレリーナのように優雅で、妙にゆっくりして見えた。 その脚は、化け物の側頭部に当たるやいなや、神速の勢いで化け物を地面に叩きつけた。 少女は、驚きのあまり、ぱくぱくと口を開いたり閉じたりするしかできない。 と、ふいに化け物が跳ね上がった。 女はとっさにバックステップで逃げたが、上着の前がはだけ、鮮血がこぼれた。 反撃に移るより先に、化け物のほうが追いすがった。 鈍い音とともに女の肢体が宙を舞う。 化け物が跳んだ。 とどめの一撃は真上からだ。 「いやぁぁ!!」 殺される、と少女は思った。 しかし、女は、間一髪のところで身体をひねって逃れた。 女が立ち上がるのと、凶爪が振り下ろされるのが同時。 少女は、ぎゅっと眼をつむった。 肉の斬れる、嫌な音がした。 しかし、少女がふたたび眼を開けると、倒れていたのは化け物のほうだった。 怜悧な表情をした女の左腕は、血に濡れている。 女は、自らの腕でもってして、化け物の爪を受け止めたのだ! それでいて眉ひとつ動かさない女を、初めて少女は異常と気づいた。 女が動いた。 横薙ぎの爪の下にもぐり込み、下から強烈なキックを浴びせる。 キィン、と音がして化け物の爪が割れた。 ガラスのような破片が降りかかるのを物ともせず、さらに鳩尾にひじ鉄をくらわす。 化け物がたたらを踏んだ。 瞬間、女の身体が伸び上がった。 化け物も、女を押し潰そうと両手を広げる。 細い女の姿が、醜悪な化け物に覆われた。 その時、女の右手がきらめいた。 銀色の弧をひいて、化け物が倒れる。 女が持っていたのは、折れた化け物の爪だった。 一切の動きを失った化け物の身体は、やがて霧となり消えた。 少女が我を取り戻した時には、すでに女の姿はなかった。
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