君の隣 1

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歩き出した奏の、向けられた背中を見る。 交わす言葉も反論すらも無いまま。 ただ立ち尽くすことしか出来ない俺は、ただ離れていく貴方を見つめる。 ‥‥‥本当は呼び止めたい。 呼び止めて、しがみついて 泣いて、叫んで “嫌だ”“別れなくない”って…。 でもね。 口が、体が、思うように動かないんだ。 まるで自分の体じゃないみたい。 凍っちゃった、かな?なんて。 『女がいい』 これ言われたら、男の俺に反論も何も出来ないって。 する余地がない。 貴方が俺に、喩えそれが偽りでも…振り向いてくれた。 幸せを、愛を、与えてくれた。 それだけでも奇跡。 奇跡なんだ…だから‥‥。 歪む視界越しで貴方を見た。 でもせめて…。 口には出さないから、さ。 心の中だけでいいから、言わせて。 (行かないで…行かないでよ! ずっとって、ずっと一緒にいるって約束したじゃんかよ!! ‥‥もう二度と戻れないの? ねぇってば‥‥) 揺れている心の中。 子供のように泣いて、喚いて、叫んだ。 「ぃやだ、よぉ…っ」 不覚にも溢れて出てしまった声が 貴方に、聴こえてないことを祈りながら。 next...
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