月見の酒

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毎年同じ日に山に入る。酒を一本抱えて。朝まで飲み明かす為に。 『寂しくないの?』 『そう感じた事はないが、坊やといると楽しい』 それが始まりだった。 その時から、毎年の山登りが始まったのだ。小さい頃は夕方まで、外泊出来るようになってからは夜から。成人して、酒が加わった。 俺の秘密の楽しみだった。 山の奥の竹林。その中にある庵が目的地。 「…懲りずに今年も来たか。ご苦労なことだ。」 そう言いながらも出迎えてくれる、この庵の主は出会った時から変わらない。はじめの数年は女性だと信じて疑わなかった程の美貌と凛とした気配。 人ではないと知りながら、こうして毎年通ってきた。 『坊やといると楽しい』 そう言ってくれたから。子供心に必要とされている喜びははっきりと理解出来たから。「自分は寂しい」という事に気付いてない、それがわかったから。 『また会える?』 『坊やが秘密にしてたら、来年の今日にね』 だから、約束を守って毎年通うようになって、15.6年。これからもずっと続くと信じていた。 「こうして、お前と酒が飲めるのも、今年で終わりだね。毎年楽しかったよ。」 「なんでっ?!俺、誰にも話してないよっ!」
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