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〈手弱女(たおやめ)〉
優美で、しなやかな女性の事を指すそうだ。
何かの折りに耳にした言葉は、ある女性(ひと)を思い出させる。
日傘の似合う、美しい人だった。すんなりとした立ち姿に淡い水のような着物で、結い上げた髪の後れ毛が細く白いうなじにかかる様は上品な色香を醸し出す。
真夏の陽の下にあって、そこだけが涼しげだった。
私は、一目で恋をした。
「願いを、叶えてくださいますか?」
ある日、あの人は鈴音のような声でそう言った。
「ホタルを、見たいのです。」
その時から、私はホタルの研究に没頭した。清らかな水のある沢を見つけ、何度も何度もホタルを放った。
ただただ、あの人の願いを叶えたかった。
「…ホタルは、人の魂を運ぶと言われているそうです。」
真っ白な手が闇に浮かぶ。差し延べられた手に誘われるようにホタルが飛んでくる。その淡い光に、美しい横顔が微かに見える。
それは、なんと幻想的な光景であっただろう。
「貴方のおかげで、やっと…連れて行く事が出来ます。」
神と言うには人らしく、妖しと呼ぶには清浄だった。
「…いつか、私をも迎えに来てくれますか?」
「それが、貴方の願いであれば。」
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