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「コホンッ!」
「……すまん」
昨日同様に顔を真っ赤にしたイリーナがわざとらしく咳払いをすると、グレイは素直に頭を下げた。
珍しくリリが突っ込んでこないのは、まだ眠いのかグレイの肩にたれたままだからだ。
しばらく沈黙が続いたが、話が進まないと困るのかイリーナからきっかけをつくった。
「グレイ君、あなたにやってもらいたい依頼があります」
『やはり』と思う反面、疑問も湧く。
「なんで普通に依頼データを送ってこなかったんだ?」
「それは……」
イリーナの顔が申し訳なさそうに沈む。
「それはこれが特殊な任務だからです」
「特殊?」
「はい。今回の依頼主、形式上は私ですが、本当の依頼主は五老聖からです」
はっきりと、グレイの顔が驚愕に変わった。
実は過去、グレイは何度か特殊任務を受けたことはある。それは難易度、危険度が高いものばかりだった。
その任務全ての依頼主は“国”。
国が対処しきれないとき、例えば人手不足や、国が手を出しづらい場所に赴かなくてはならないとき、ギルドというのは便利な“なんでも屋”となる。
だが今回、イリーナははっきりと“五老聖”と言った。
五老聖とは過去、この世界の誕生に貢献したといわれる人物達。
実質国やギルドどころか、世界の支配者達である。
その五老聖直々の依頼。
「そりゃまたたいそうな話だな」
おどけてみせるが未だに驚きを隠しきれない。
「任務は勿論内密に。分かっていると思いますが、任務の重要度は過去最高です」
真剣みを帯びた視線を向けて、あえて当たり前のことを口にする彼女は、改めて、問いた。
「この任務、受けますか?」
数拍、答えに間を置いた。
答える直前、グレイはニヤリと口端を吊り上げる。
「上等!」
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