特待生

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―――――――† 「いやぁ、シチュー旨かった!」 陽も完全に暮れ、空の光といえば月と星。そして学園内を照らすのは所々の街灯。 水玉のように照るアスファルトを歩くのは、銀色の少年と蒼黒の少年。 「にしても、ティナはともかくミーナがあんなに料理出来るとは思わなかったぜ」 「孤児院じゃ僕やミーナは年長者でしたからね。料理は彼女の担当でしたよ」 蒼黒の少年、ユーノは能面のような笑顔をはりつけて話す。 元がそれなりに良い顔立ちだからか、その笑顔に不自然なところはない。ないのだが、やはりグレイは好きにはなれない。 ユーノ・バレンタイン。 グレイとは違う、本来唯一の特待生。その実力をグレイは直に見たわけではない。 だが、強い。魔力量も“今の”グレイを遥かに超える。すでに学生の域ではない。総量だけなら、高位の魔導士に匹敵する。 (……末恐ろしいな) 自分を棚に上げたセリフをグレイは頭の中で浮かべていた。 「――ですか?」 「んあ?」 思考に集中しすぎて聞き逃した。気付けば、ユーノは歩みを止めていた。 電灯の下で、彼の糸目の隙間から青い瞳が鈍く光る。 「本当にミーナに勝ったんですか?」 振り返ったグレイはしばし沈黙をつくる。その間に蒼の彼を観察した。 「信じてないって面(つら)には見えねえけど」 「勿論。彼女は嘘をつきません。ましてや、負けず嫌いの彼女が自ら負けを認めるような嘘の発言をするはずがない」 「ならどうして、んなこと訊いてきたんだ?」 電灯の下、ユーノは“笑み”を浮かべた。今までの能面とは違う、彼自身の感情が混じる笑みを。 左側の腰にさげたホルダーから抜かれる銃。通常のそれより銃身が長く大きめのサイズのそれは、グレイに向いていた。 唐突なことにグレイが驚くことはない。ユーノもまた、何かを語るわけではない。 視線は常に絡み合い、沈黙だけが続く。 「グレイ」 ユーノがガチャリと撃鉄を起こす。 「僕と戦いませんか?」
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