第十三章

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あれから5年の月日が流れた。 あの後、私はしばらく埼玉の母の元で心に負った酷い傷を癒すべく、何もせずにじっと時間が過ぎるのを待った。 やっと心を開いてくれた先生と、身も心も一つになれたと思った瞬間のあの拒否は相当堪えていたのだ。 なにもかもが嫌になり、ピアノを弾く気になかなかなれなかった。 しかし悪い事ばかりではなく、家族の絆は深いものとなった。 まず、兄が母に詫びを入れ和解した。 兄が家出をして11年。 長い冬にようやく終わりを告げ、雪溶けが訪れたように、穏やかに母子三人で食卓を囲んだ。 その時、兄は櫻井先生が失明した事を教えてくれた。 けれど私の心は雪が凝り固まったままで、どうする事もできなかった。 私がいくら愛しても、先生にとっては迷惑なだけかもしれない。 そう思うと行動できなかったのだ。 .
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