第十三章

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「突然呼び出して申し訳なかったね。私はクラシックを専門に扱うレコード会社を経営しています。加藤さんはどこでピアノを習われたのかな?これほどの腕前がありながらこんな場所…いや、失礼…才能を埋もれさせるのが惜しくて声を掛けさせていただいたんです」 オーナーは苦笑いしながら言う。 「永瀬様はね、地道にクラシック一筋でここまでやってこられて、クラシック界では重鎮なのよ!」 私は永瀬さんとオーナーを交互に見つめながら真剣に話を聞いていた。 「はい。えっと…私は大阪音大に在学中にフランス留学をしまして…」 そこまで言った時、永瀬さんが「ほぉ!」と感嘆の声を上げた。 「大阪音大ですか!あそこの学長とは古い友人でね…そうか!大阪音大か…」 「学長をご存知なんですか!」 「ふむ。息子の櫻井和寿君も一度はうちと契約していたんだよ…。彼は残念な結果になってしまったんだが…加藤さんの演奏はその和寿君のとよく似ているんだ!」 櫻井和寿… その名前を久しぶりに聞いて胸がズキンと痛んだ。 .
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