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「お、悠じゃん。おはよーさん」
「あぁ、優希か。おはよう」
通学路を曲がったところで現れた自転車に跨る彼は僕の数少ない友人・東雲優希(しののめ ゆうき)。長身に端正な顔立ち、その上スポーツ万能と、ハイスペックユーティリティーパーソンである。
名前からしてめちゃくちゃカッコイいじゃねぇか。東の雲の優しい希望て。
僕と正反対の彼。全くもって釣りあっていないよな。とりあえず一個くらい才能を譲ってくれればいいのに。
「はは!そりゃ無理だ」
「だから僕の心を読むんじゃない!!」
どうしてみんなして僕のプライバシーを侵害するんだ。というか姉さんにしろ優希にしろ簡単に人の心を読みすぎだ。
もしかしてあれか?読心術は本来人間に備わっている超基本的な能力であり、僕にはそれが欠落しているだけとでもいうのか!?
「いやいや。悠は思ってることが顔に出やすいからな。特に羨望の表情とかわかりやすすぎんだよ」
「人は自分の持っていないものを欲しがる生き物なんだよ」
「はは!なら悠は羨望の表情以外したことないんじゃないのか?」
「余計なお世話だよっ!というかそれは言い過ぎだ!」
自信があるやつってのは嫌だなぁ。
まぁ優希がこういうからかい方をするってのは知ってるし、本当にナルシストなわけじゃないのはわかってるけどさ。
優希は優希で努力しているみたいだし。
「ま、本音はこれくらいにしといて学校へ行こうぜ?」
「本音なのかよっ!冗談って言えよ。ちょっと傷ついたじゃないかっ!」
さて。こんな会話を続けること十数分、僕たちの通う私立・紀世ノ宮学園が見えてきた。
地元ではなかなかに有名な高校で、有名国立大学にも毎年何人も輩出している。
ま、正直僕には関係のない話だ。どうせ僕の頭じゃ大学進学すら危ういんだからな。国立大学なんて無理だ無理。
てか始業まであと5分もないな。
「お。弓ヶ浜じゃねーか」
校門へ近づくと、なにやら男の声が聞こえた。
声からして中年。ま、朝礼挨拶の先生だろう。
聞き覚えのある声だが関係ない。そう思って僕と優希は振り返ることなくスルーしながら教室へ急いだ――のだが、不意に僕の肩に手が置かれ、中年の声がすぐそばで聞こえた。
「おい。無視するな弓ヶ浜」
「……って僕かよっ!?“ヶ”しか合ってねぇじゃねぇか!」
僕は海水浴場ではねぇよ。
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