flag 1:フラグ・ブレイカーと囚われの逃亡者《プリンセス》Ⅰ

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「おい、俺は教師だぞ?敬語を使え弓ヶ浜」 「……人の名前を思い切り間違えたくせになんでそんなに偉そうなんですか?あと僕の名前は結ヶ崎です」 「あぁあぁ、高天原ね。お前地味だから忘れてた」 「話聞いてました?高天原なんて一言も言ってねぇよ。すでにかすってすらいないし。てかさりげなくひでぇ!」  この、物凄くいい加減で、もう僕に突っ込ませるためにボケてるとしか思えない中年男は、僕と優希のクラスの担任・綾原恭哉(あやはら きょうや)。寝癖もろくになおしていないのか所々はねており、ヨレヨレのワイシャツを身に纏っている。  僕からすれば先生にあるまじき容貌と態度なのだが、生徒間ではアンニュイなところが親しみやすくて面白い、となかなかの高評価を得ている。  クラス担任のくせに生徒の名前を覚えることが出来ていないってのは問題だと思うのだが……というか教師がこんな時間に来ていいのか? 「寝坊したんだよ。じゃ俺は職員室に寄ってからホームルームに行くから。遅れんなよおめーら。遅刻したら廊下に立たせるかんな」 「あんたが言うか?」  優希の発言もどこ吹く風。片手を上げ、職員室の方へ去っていく綾原の背中を見送りながら、僕らは始業のベルが鳴るのを遠くに聞いていた。 †  結局、僕らは立たされた。  始業のベルが鳴ってすぐに走ったんだが、間に合わなかった。  どうして職員室に一度向かったはずの綾原が僕らよりも早く教室にたどり着いたのかほとほと疑問だったが、教卓の上に置かれた通勤鞄を見たとき謎が解けた気がした。  自分の言ったことにくらい責任を持ってほしいものだ。  閑話休題。愚痴はここまでにしておこう。  僕の通う私立・紀世ノ宮高校は共学である。当然、異能者もいる。  他の高校は、異能者である女子には女子用のカリキュラム、一般人の男子には男子のカリキュラム、と学年を一般科と特別科に分けているところも多いのだが、我が校は違っている。  実際、うちも数年前まではそうしていたのだが、今の校長の持論では「男女を分けてしまうと、確執が出来てしまう」ということで、特別にわけることもせず男女混合となったのだ。  当然、女子と男子とでは時間割に違いはあるが、それでも学生にとっては青春を謳歌出来る、と喜ばれており、最近は受験者数も増えてきているらしい。
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