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5月某日。梅雨入りにはまだ少し早いこの時期は、学校への登下校だけでも額に汗が滲むようなカラリとした五月晴れが続いていた。あと数日も経てば―――せっかく修繕したのにという気もするが―――暑苦しい学ランともおさらばだ。
桜はすっかり緑色に変わり、今にも蝉の鳴き声が聞こえてきそうな初夏の季節。僕の一番好きな季節。
が、ただそんな風景に風情を感じ、うかうかしていられるほど、今の僕に余裕なんてものは小指の爪ほども残っていなかった。
良い意味でも悪い意味でも夢のようだった数日間が過ぎ去り、いつ新たな敵が来襲するとも限らない仮初めのものではあるが、無事平穏を取り戻した僕と古河。
まぁ、告白のあとすぐに退院は出来たのだけれど、家に帰ったときに母さんと姉さんに殺されかけたのは苦い思い出だ。どうやら真崎先生が家族に電話しわすれたらしかった。優希の家に泊まり、そこから学校に行ったということでなんとか誤魔化したので、まぁ一応死なずにはすんだけれど……連絡しなかったということで半殺された。
中一日で登校した僕は、優希や西園寺を始め、何も聞かずに「解決したみたいだね」と微笑んでくれたいんちょー、無断早退した僕に嫌がらせを実行する綾原に日常を感じたのだった。
けれど、僕にはある意味で異能者よりも手強く、苦しい、そして悪夢のような試練が待っていた。
進学校では一年間に6つある、僕の学園生活の分水嶺。
勉強の苦手な僕や煉条にとって、耐え難い苦痛の行事。一学期中間考査である。
「勉強会をしましょう」
そして悪夢は、古河のこの一言から始まった。
「……はい?」
学校の昼休み。
例によって屋上に集まった僕と優希、煉条、西園寺―――そして、古河。
一週間ほど前からメンツは1つ増えていた。理由は言わずもがな、である。
「何をいきなり……」
「いきなりでもないでしょう?もう一週間後にはテストなのよ?」
そう。なんやかんやで僕が気付いた時にはすでにそこまで来てしまっていた。
まぁ、元々、手遅れだし勉強も大してする気はなかったからどうでもよかったんだけれど。ただ、母さんは僕が悪い点をとっても怒らないんだよな……それが逆に堪えるんだよなぁ。
留年でもしたらもう合わせる顔もない。せっかくいい学校に入れてもらったのにさ。
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