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美人なのだろう。なのだろうというのは、僕が今まで見てきた美人とも「格」が違うため、同じ美人というカテゴリーに識別していいものかどうか。
シミ一つない美しい白い肌に、腰まであろうかという滑らかな黒髪。若干吊り気味の眼も逆にその美しさを引き出しているというか……なんというか、美しさを体現したような人だな。
ただその瞳だけは冷たく――孤独な目をしている、気がした。
うーん…美少女って言うには顔が大人びすぎてるかな。それでいて掴めば消えてしまいそうな……粉雪のような儚さも感じられる。
要は、それくらい美人だってこと。騒がしかったクラスも今や静かだ。
「んじゃあ、自己紹介を――」
「古河白雪(ふるかわ しらゆき)」
綾原の言葉を遮るように自分の名前を述べる女生徒――古河。その声も澄み渡っていて……べた褒めだな、僕。ただちょっと気が強そうで絡みづらそうだ。絡まないけど。
「……わかった。席は…」
若干面食らったような表情の綾原は教室を見渡し、そして目を止めた。
……こちらを見ながら。
イヤな予感。生憎と僕の予感は外れたことがないんだ。ネガティブな場合のみだが。
僕の席は窓側から二列目の最後尾で、左には何もない。
「火ノ宮の隣があいてるな」
予感的中、さすが僕。クラスメートが一斉に僕を見てくる。
羨望や嫉妬の視線もあるが、一番多いのは憐れみだ。大方みんなもさっきので古河の性格をなんとなく察したのだろう。
「よろしく、火ノ宮くん」
いつの間にか僕の席の近くまで来ていた古河が、冷淡な口調でそう言った。
……僕は火ノ宮じゃねぇっ!!
†
その後、古河の分の机を取ってこいと言われて渋々倉庫へ向かった。
力仕事は得意じゃないが仕方ない、と精一杯汗をかきながら運んだのだが、まぁ案の定っちゃあ案の定なんだけども授業は始まっており、僕の机があった場所には僕の鞄だけが虚しく放置されていた。
その左隣で古河は涼しい顔して黒板を見ている。君が座ってるのは昔、僕が座っていたイスなんだよな、きっと。
くそ!なんだか損した気分だ。
「おせーよ火ノ宮。さっさと席つけ」
「……先生。席がありません」
「さぁ、続けるぞー」
無視か。いいさ。この扱いには慣れた。
心の中で愚痴りながら、みんなの授業の邪魔をしないように、持ってきた机を静かに僕の机があった位置に置いた。
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