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異能―――それは異なる能力。一般的には手を触れずにものを動かしたりする超能力や、呪文を唱えて炎を顕現する魔法、はたまた見えないものが見える霊的能力のことを言う。
そして異能者―――文字通り異なる能力を持つ人間。いや、人間というカテゴリーに属するかどうかすら怪しい。
人間は個人差はあれど、“人間としての能力”を持つからこそ人間と呼ばれるのだ。そう考えると異能者を人間と呼ぶことができるのだろうか。
人間は人間であるがゆえに他者を認め、信用する生き物だ。そのため自分たちとは異質の存在を認めることができず、否定し、恐れる。そうした理由で異能者というのはしばしば迫害を受けてきたものだ。
そう。つい数十年前までは。
そのころまでは異能者はほとんどゼロだったと言っても過言ではない。たまにいても幽霊が見えたり、予知夢を見たりなどと内面的で他人にはほとんど干渉しないものが多い。
その上、確かな証拠もなく、その人間が自意識過剰だっただけということもあり得た。
それが常識。一般人に広く知られていた定義。
ところが、そういった常識は今から丁度65年前――2055年に完全に覆されることになった。
異能者の大量発生である。
それも幽霊が見えるなどという陳腐なものではなく、それこそファンタジーやSFの世界でしか有り得ないような能力ばかり。
さらに、その能力を授かったのが女性だけときた。例外なく世界中の女性全員が、個人差はあるが異能を手に入れて“しまった”。
図らずも。
何の予兆もなく。
もちろん世界中の研究者たちは事態の究明を図った。だが異能の正体やそうなってしまった原因はさっぱりわからなかったのだ。
そうなるといよいよ世界中の男の権力者たちは戦々恐々となる。原因も原理もなにもわからない能力を使用されてはあっさりと自分の立場など奪われてしまう。
だからこそ手を打とうとした。だが打てなかった。
女性を迫害したとしても無意味。そもそも女性なしでは男は生きていけるはずなどない。男と女の比率が現状を保つからこそ今の世界が成り立っているのだ。
そうするともはや手のうちようがない。術がない。為すがまま為されるがままに世界は変貌を遂げた。
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