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そもそも普通とは何かと突き詰めていけば、他人と同じであることこそ普通、ということになるのだろうが、そう考えてしまうとそんな条件を満たす“普通”の人間などいなくなってしまうだろう。
今はそんな屁理屈をこねている場合ではない。
某ライトノベルの冒頭部分よろしく哲学的に語れるような脳みそなど、生憎持ち合わせていない。
とにかく僕は―――
「悠ー!ご飯できたわよー」
何かを介しているためか、若干くぐもった女性の声が聞こえる。
というか僕の母親の声だ。
のっけからわけのわからない話をしたわけだが、僕は今、自分の部屋にいる。
時刻は朝、季節は春。春といえば桜だろう。
カーテンを開け放った部屋には淡い陽光が射し込み、薄桃色の桜の花びらが窓の外を舞っているのがよく見える。
ふむ、なかなか風情のある風景だなぁ。
などと寝起きそのまま、パジャマから着替えることもしないまま黄昏ていると(朝だが)、突如現れる人の気配。
続けて背中を伝うひんやりとした雫。
「あ……うぁ……」
「悠……?どうして呼んだのに来てくれないの……?もしかして……私のこと、キライ?なら……私、生きてる意味ないね。悠を殺して私も死ぬ!」
「やめてくれ!母さんのことはキライじゃないから!」
そんな理由で死にたくない!
「じゃあ……好き?」
乙女のごとく頬を紅く染め、上目遣いに僕を見る母さん・結ヶ崎美雪(ゆいがさき みゆき)。
年はたしか…まだ30代だったはずだ。家族という贔屓目なしに美人の方だと思う。
……まぁ、その右手には陽光を反射して鈍く煌めいている包丁があるんだけども。
正直、おのれは思春期の女子か?と怒鳴りたくなるところだが、そんなことをしたら僕はその包丁の餌食に…少なくとも五体満足ではいられなくなりそうだ。
朝起きるのが遅かったから親に殺された……だなんて笑い話になりゃしない。
僕はまだ伝説になりたくない!
「あぁ!大好きだ!好きで好きでしょうがないっ!僕は……マザコンだー!!」
この時の僕は凶器を片手に狂気に走る(うまくないか?)母さんを宥めるのに必死だったのだろう。
なぜ叫んでしまったのか……悔やんでも悔やみきれない。
こうして、朝叫ぶマザコン少年の噂が広まったのだった。
……いっそ殺してくれぇぇえぇ!!
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