Ｑ.あなたの前世はなんですか？

前世のこと

わたしことエイコは、口からぷわりぷわりと泡を吐きながらも哲学を少女たちに話しました。
自分の書いた小説のこと、少女らの妄想の中では、わたしは恋愛小説を書いているようでした。そして、海のこと。くらげがどんなに優雅ないきものか、夜の海がどんなに美しいかなど、赤き少女たちに話して聞かせました。海など、ましてや恋愛など、外に出たこともないわたしは露ほども知りません。それにわたしは淡水魚。海など知るよしもありませんが、お父様がわたしに残した哲学の呪いは強力でした。お父様はわたしに知識すらをもペン先から与えたのです。まるで賢人のような、素敵なとうさま。
恋愛の事を語るとき、わたしは必ずお父様を思い浮かべました。あの、やつれて痩けたような頬をわずかに歪まして、わたしに微笑みを向けていらしたお父様。わたしの神さま、わたしの全て！

「…彼が居なくなって、わたしはひどく泣いたわ。その時泣いたせいで目が潰れてしまったのよ」
「どうして、その人は帰らないの？」

少女たちは、わたしの話を真剣に、且つ好奇心を以て聞いています。彼女らは無垢であり、無知です。疑問に思ったことは、幾度となく吐き出します。泡と共に。

「それはね…、彼の心がわたしのものではなくなってしまったから、よ…」

赤色たちから、ざわめきが聞こえます。どうして？では、誰のものになったのかしら？彼はどこへ消えていったの？

それらは、わたしが聞きたい、知りたい全てでした。