前世のこと

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やがて、少女たちは、わたしを「エイコお姉さん」と呼び慕うようになりました。少女たちはわたしの話す有りもしない小説の内容に想いを馳せています。広い水槽の中でいっとう美しい鱗を持つ少女などは、わたしが作った一人のキャラクタァである男性に恋焦がれ、いつでもほぅ、とせつなげに溜め息を吐いておりました。 わたしの頭の中にある色んな事柄、これはわたしの壮大な妄想であるとも言えますが、それらが赤き少女たちに影響を与えていることは、自分としてはとても複雑なことでした。わたしは生まれつきの障害で普通の金魚としては生きられず、少女になろうとしても、お父様の哲学の力によってそれも叶わない、みにくい異形のサカナだったはずです。しかし、それらの哲学が少女たちに理解され、共感され、さらに影響を与えてしまうなどということは、わたしからすれば至極不可思議なことでした。わたしの話に彼女たちが驚嘆したり、笑ったり、泣いたりするたびに、わたしは浅ましくも期待してしまうのです。今からでもわたしは、少しばかりの哲学を知った彼女たちに紛れて、普通の金魚として、少女として生きてゆけるかもしれない、と。ですが、それはやはり到底無理な話なのです。 水槽の外にいるお母様が、わたしを睨みながら舌打ちをなされました。お父様がいらっしゃった頃に、お母様が舌打ちなどされただろうか?母は、お父様が居なくなられて、きつく、荒々しくなったように思われます。
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