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ある日のことです。
わたしが目を覚ますと、赤き少女たちが群がって何かを見ていました。
「どうかしたの?」
「ああ、ああ、エイコお姉様!」
私に応対した少女は、ひどく涙目ながらも、しゃくりあげながらこれだけ言いました。
―――鱗姫が、大変なの。
鱗姫とは、私の作ったキャラクタァに恋い焦がれ―いえ、とり憑かれたというほうが正しいのでしょうか。水槽の中でも、いっとう美しい鱗を持つあの少女が、どうしたというのでしょう。
わたしは赤き少女たちの群れをかき分け、鱗姫の元へ向かいました。
鱗姫は、水面下に浮遊していました。
ゆらゆら、ゆらぁり、
彼女が姫と呼ばれた由縁の、あの美しかった鱗は剥げ落ち、餌も食べていないのでしょう。げっそりとやつれてしまっていました。
ゆらゆら、ゆらぁり、
「鱗姫!」
「……エイコお姉様…?」
「そうよ、エイコよ。」
鱗姫は虚ろな眼球でわたしを見ますと、少し水中に沈みました。わたしは慌てて小さなヒレで押さえようとしましたが、その必要はありませんでした。鱗姫は、また水面に浮かびました。
「うろこ――」
「さっきからなの、身体が言うこと聞かないの」
うふ、と小さく笑った鱗姫がひどく悲しそうに見えました。
私には分かりました。この少女はもうすぐ死んでしまうことが。そしてそれが、私のせいだということも。
鱗姫は、私が作った架空のキャラクタァに、恋い焦がれ、恋い焦がれ、その成れの果てがこれなのです。
―――私のせいだ…。
私が鱗姫を見つめると、あんまりにもわたしが悲痛な面持ちだったのでしょうか。鱗姫が声をあげて笑いだしました。しかし、その死にそうな身体には、笑っただけでも負担がかかります。笑った拍子に、鱗姫の赤色が大きく揺れました。
ゆらぁ、り!
「鱗姫、動いてはだめ!」
「だあって。……ね、エイコねえさま…」
「なあに……?」
「姫は、死ぬ?」
その言葉に、わたしは抉られました。
周りの少女たちの群れが、固唾を飲んでわたしたちを見つめていました。
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