第三話 キスミーテンダー

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全方位からの強襲。それはまるで刃の弾幕……刃幕と言えた。 (これは……例え私でも避けられない) 桔梗の読みは間違っていなかった。事実、あやめは一歩も動けなかった。 否、一歩も動かなかった。 万を越える包丁の切っ先が、ただの一本もあやめには届かなかった。全て直前であやめから発せられる気の壁に阻まれていたしまった。 「気の壁が強過ぎる! 咲一人では突破出来ない……」 目を見張る桔梗。 しかし、咲はすでに次の行動に移っていた。 夥しい数の包丁の中から一本を手に取り、あやめに向かって駆け出す。 「咲さん、止めろッ!!」 雅人の制止を聞かず、咲は手にした包丁を腰に構えて身体ごとあやめにぶつかって行く。 今にあやめに近付くのは恐ろしい自殺行為だ。だが、咲は自分の身を顧みなかった。 しかし、無情にも咲の持つ包丁の切っ先も気の壁に阻まれている。 「妖力……全開……!」 渾身の力を込めて妖力を高め、包丁の刃を伸ばそうとするが、それ以上先には進まない。 「竜也さんが、もう戦わなくていい様に……!」 咲は祈りにも似た願いを口にするが、酔った如月あやめはそれだけで何とか出来る相手ではなかった。 パキッ 咲の妖力とあやめの気に拮抗に耐え切れず、包丁の切っ先が乾いた音を立てて欠けてしまう。 「ク……!」 唇を噛んで悔しさを露わにする咲。
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