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その時、咲の握る包丁の柄に長い黒髪が巻き付いてきた。
「咲ちゃんばっかり目立たせないよ~」
髪の先にいた人物……瑠璃は、緊迫したその場にそぐわないのんびりした顔で笑っていた。
「瑠璃さん!?」
「話は後ぉ。二人同時に妖力を全開にするよぉ」
驚く咲に、瑠璃はいつもの口調であやめへの対処を提案してきた。
その提案に一瞬だけ迷った咲だったが、すぐに頷き返す。
「分かりました!」
本当なら一人で目の前の女を殺したかったが、自分一人では荷が重過ぎると判断したのだろう。
「イッくよ~!!」
珍しく瑠璃が大きな声を出すと同時に、咲も残った妖力を全て一本の包丁に込めた。
そして、咲は包丁の柄に巻き付いた瑠璃の髪から強い妖力の流れを感じた。
「ク…クゥゥゥ!」
「ウ~ン!」
咲と瑠璃の妖力が込められた包丁が、あやめのATフィール……気の壁に徐々に刺さり始める。
やがて、それは突然訪れた。
ピキィィン
硬い硝子が割れた様な乾いた音を立て、あやめの気の壁……ATフィールド……気の壁を咲の包丁が貫いた。
「ハアァァァァッ!!」
貫いた勢いそのままに、咲は手にした包丁をあやめの左脇から右肩に掛けて振り上げた。
※※※
「これを着るのも久しぶりだな」
その女性は押入れの奥に仕舞い込んでいた道着を引っ張り出し、実に数年振りに袖を通した。
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