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多少体型が変わっても道着は着れるが、今合わせた様にピッタリの道着にその女性は安堵のため息が漏れた。
もう二度と着る事は無いと思っていたが、この道着は捨てるつもりはなかった。それはこの道着は自分に武道を教えてくれた師匠の形見だったからだ。
袴の帯を強く締めると、身も心も引き締まった。
「……ヨシッ!」
一度気合いを入れてから、その女性は玄関のドアを開けた。
(急がないと……あやめちゃんの気は益々強くなっている!)
※※※
「ッ!?」
全速力で飛ぶ自衛隊のヘリの中で僕は息を飲んだ。
「山岡君、どうしたんだ?」
怪訝そうに僕を見る谷総理に、僕は険しい顔を向けてしまう。
「あやめさんの気が……」
「弱まったのかッ!?」
嬉しそうに聞いて来る谷総理に首を横に振って応える。
「……より一層強くなりました」
「な…何て事だ……」
僕の言葉に、谷総理は力が抜けた様にヘリコプターの壁に寄り掛かった。
「すいません! 急いで下さいッ!!」
ヘリコプターのモーター音の中、僕は焦る気持ちを抑え切れずに叫んでしまった。
※※※
咲が振り上げた包丁はあやめが着ていた白いセーターを大きく切り裂いた。その代わり、根元から完璧に折れてしまった。
「そ…んな……」
包丁数万本分の妖力を込めた包丁が折れた事も咲が驚いた要因ではあった。だが、それよりも咲が驚いたのは……その包丁が折れる程強く振ったというのに、あやめの身体には傷ひとつ付いていないという無情な現実だった。
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