第三話 キスミーテンダー

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「私が気を操れる様になったのは高校三年生の時。桔梗さんと言う最高の師がいたとはいえ、私より早く気を覚えたのは凄いわね」 そう言いながら、あやめは右手を雅人の頭の辺りまで上げた。 (何だ、あの構え……いや、構えじゃないのか?) 姉の行動の意味が分からず、警戒を強める雅人。 だが、次にあやめが言った言葉に自分の耳を疑った。 「よくやりました。撫でてあげる、きなさい」 「…………何……だと?」 一瞬構えを解き、呆然とした顔で立ちすくんでしかった雅人だったが、すぐに構え直す。 「馬鹿馬鹿しい! 姉貴に褒められる為にここまで鍛えたとでも思ってんのかッ!?」 「……弟の頑張りを姉が褒めるのは当然でしょう?」 気取った様子も気負った様子も無く、あやめが言い放つ。 「ッ!?」 その瞬間、雅人の鎖骨中央から下約15cm。その奥に突如現れた痛みにも似たもの。痛みながらも手放したくないもの手放し難き痛み。 姉から褒められるという当たり前。抜け落ちたまま過ぎ去った17年だった。 弟が姉に褒められた際の感激……成就……果報……この弟には一切が無さ過ぎた。あまりに不慣れすぎていた。 それでも、雅人は今度はファイティングポーズを崩さなかった。 「ダメだよやっぱこんなのは……これは……かけがえのない時だから。どっちが勝つかの喧嘩だからッ! どっちが強いかの比べ合いだからッ!」 「良く言ったッ!!」 雅人の覚悟の言葉を肯定する声が辺りに響いた。
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