4853人が本棚に入れています
本棚に追加
「私が気を操れる様になったのは高校三年生の時。桔梗さんと言う最高の師がいたとはいえ、私より早く気を覚えたのは凄いわね」
そう言いながら、あやめは右手を雅人の頭の辺りまで上げた。
(何だ、あの構え……いや、構えじゃないのか?)
姉の行動の意味が分からず、警戒を強める雅人。
だが、次にあやめが言った言葉に自分の耳を疑った。
「よくやりました。撫でてあげる、きなさい」
「…………何……だと?」
一瞬構えを解き、呆然とした顔で立ちすくんでしかった雅人だったが、すぐに構え直す。
「馬鹿馬鹿しい! 姉貴に褒められる為にここまで鍛えたとでも思ってんのかッ!?」
「……弟の頑張りを姉が褒めるのは当然でしょう?」
気取った様子も気負った様子も無く、あやめが言い放つ。
「ッ!?」
その瞬間、雅人の鎖骨中央から下約15cm。その奥に突如現れた痛みにも似たもの。痛みながらも手放したくないもの手放し難き痛み。
姉から褒められるという当たり前。抜け落ちたまま過ぎ去った17年だった。
弟が姉に褒められた際の感激……成就……果報……この弟には一切が無さ過ぎた。あまりに不慣れすぎていた。
それでも、雅人は今度はファイティングポーズを崩さなかった。
「ダメだよやっぱこんなのは……これは……かけがえのない時だから。どっちが勝つかの喧嘩だからッ! どっちが強いかの比べ合いだからッ!」
「良く言ったッ!!」
雅人の覚悟の言葉を肯定する声が辺りに響いた。
最初のコメントを投稿しよう!