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何故雅人が今だに左手を離してくれないのか理解出来ないのか、あやめは小首を傾げる。
「雅人どいて、竜也くんに近付けない」
女子大生とは思えない程幼くそう言うあやめだったが、雅人はそれでも左手を離さなかった。
「ツレナイ事言うなよ姉貴。彼氏が来たから弟はバイバイなんてな」
そう言って、雅人はあやめの左手を離そうとしない。
雅人は分かっていたのだ。まだあやめの中に桔梗の気が残っている事を……。
「どいて」
「嫌だね」
その申し出を雅人が断った次の瞬間、あやめが無造作に左腕を振るった。
ピゥン
空気を切り裂く風切り音。
雅人の身体が地面と平行に振り回される。
それでも雅人は左手を離さない。あやめ自身はすでに左手を離しているので、雅人が離せば二人は離れる筈だった。
「もう!」
弟の駄々を嗜める様に、あやめは左腕を降り続けた。
横に、縦に、斜めに……。時には上下に激しく、時にはハンマー投げの様に回転させ……。
あやめに振り回されながら、それでも雅人は左手を離さなかった。
そんな二人を見て、竜也は楽しそうに遊ぶ幼い姉弟の幻が重なった様に見えた。
「雅人、いい加減にしないとお姉ちゃん怒るよ!」
酔ったあやめは、本当に小さい弟を怒る様な口調になる。
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