第三話 キスミーテンダー

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「へへ……姉貴が怒ったて恐くも何ともないぜ」 雅人の台詞に竜也は冷や汗が頬を伝う。 『如月あやめが怒っても怖くない』 世の中にこれ以上のハッタリはあまり想像出来ないだろう。 次の瞬間、雅人が耳にした言葉は「無礼者ッ!!」だったと思う。 ※※※ 日本人でありながら希代の中国拳法家として名を馳せる達人澤井健一氏がこんな言葉を残している。 『野球の投手が投げるような柔らかさと手の振りで相手の顔を正面から打ったなら大変な攻撃となる。目も鼻も一度に打たれて相手が見えなくなるほど涙が出るだろう』 ※※※ バッチンッ あやめが手の平で雅人の顔面を叩く。掌ではなく、手の平である。 雷に打たれた様な痛み……と言うか、痺れが雅人の顔面を襲う。 ビリビリと痺れる衝撃に雅人は身を屈める。涙と鼻血が溢れる中、雅人はそれでも右拳を振るった。 しかし、その拳は虚しく空を打つ。 そして、 バッチィッ 再びの破裂音。 あやめの平手が雅人の顔面を打つ。 「雅人ッ!」 思わず駆け寄ろうとした竜也を、雅人が右手で制する。 「も…もうちょっとだ。もうちょっと待ってろよ、竜也……」 涙が溢れているが、欠片も闘志が衰えていない雅人の目で睨まれて竜也は足を止める。
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