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(も…もう……ちょっと……だ……)
霞む視界。薄れる意識。何故ここまで意識を保っていられるのか、雅人自身にも分かっていないのかも知れない。
あやめが憎い訳ではない。
自分より強い神成や竜也が来た時点で、自分がここまで無理をする必要は無い。
(……そうだ……あいつに頼まれたからだ……)
ある人物が雅人の脳裏に浮かぶ。
(あいつに……あんまカッコ悪い姿は見せられないな……ッ!!)
雅人の瞳に、強い意識の炎が燃え上がる。
その瞳を見た時、あやめは一種の危機感を覚えた。
『窮鼠猫を噛む』
それだけの覚悟を今の雅人から感じ取った。
「フゥッ!」
鋭く息をはき出し、あやめは流れる様な動きで雅人の胸部、右脇腹、左脇腹の順に手を触れた。
そして、
「螺旋発勁~號~」
三つの発勁が大きな螺旋を描きながら雅人に炸裂した。
本来なら両手でひとつずつ螺旋発勁放ち、そのふたつの螺旋発勁を回転させる事で貫通力を増す『轟螺旋発勁』。それを片手で行う為、時間差で三つの螺旋発勁をあやめが放ったのだ。
「………」
時間が止まる様な……空間が圧縮される様な感覚の中、雅人はあやめの左手を静かに離した。
あやめに背を向け、二人の戦いを見守っていた竜也に向かって歩き出す。
「弟の出番は終わりだ。後は……」
「うん。僕の番だね」
雅人と竜也。
すれ違う時、二人は頭の上で手を叩き合わせた。それはまるでバトンタッチの様だった。
あとの全てを竜也に任せ、その場に倒れかけた雅人を抱き留める者がいた。
「カッコ付け過ぎなのー」
呆れた様な……それでいてどこか艶っぽい呟きを聞きながら、雅人は意識を失った。
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