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※※※
「あやめさん」
気を失った雅人を連れて桔梗が姿を消すと、その場には竜也とあやめ二人きりになった。
「竜也くん」
あやめは竜也を何とも言えない表情で見つめる。嬉しそうな、悲しそうな、怒っている様な……本当に複雑な顔をしていた。
「誰もいない街で二人だけ……ロマンティックね」
「えっと……」
あやめの言葉に竜也は辺りを見回す。
地面は裂けたりクレーターが出来たりしているし、車や戦車が壊れたオモチャの様に点在している。多くの建物は傾き、街灯や電柱なんかは何本も倒壊してしまっている。
そのせいか、この辺りは月明かりが唯一の光源となり、普通の人には随分薄暗く感じられた。
「……ゴーストタウンみたいになってますけど」
「見て竜也くん。月が綺麗よ」
竜也の力無いツッコミは、酔ったあやめには聞こえなかった様だった。
「あやめさん。どうしてお酒なんて飲んだんですか? お酒を飲んだらこうなるって、あやめさんだって自覚してるでしょう?」
ほんの僅か……小指の先程度の竜也の非難に、あやめは唇を噛み締める。
竜也は知らない。ほとんど無理矢理、酒を飲まされたという事を……。
あやめは言い訳をしない。キッカケは確かに無理矢理だったかも知れないが、今なら普段言えない事も言えそうだからだ。
「……竜也くんが悪いんだよ」
あやめの目が座る。
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