第三話 キスミーテンダー

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これ以上はあり得ないと思う程優しい声。 その言葉を聞いた瞬間、再びあやめの目から涙が溢れる。 「竜也……くん……」 しかし、その涙はさっき流した涙とはまるで意味が違っていた。 「……竜也くぅん」 涙を流しながら抱き付いてきたあやめを竜也は笑顔で受け止め、優しく抱き締めた。 迷子になった子供が親を見付けて泣き付く様に、あやめは安心して竜也の腕の中で泣き続けた。 竜也は何も言わず、何度もあやめの頭を撫で続けた。 やがて、落ち着きを取り戻したあやめが少しだけ竜也から離れ、互いの息が届く距離で向き合う。 「背……少し伸びた?」 みっともない姿を見せた事へのテレ隠しか、あやめが竜也の頭に手を当てる。 「少し。成長期ですから」 ほんの数センチだったが、竜也は自信満々に胸を張る。 「その内、雅人位になったりして」 「それはちょっと……」 悪戯っぽく笑うあやめに、苦笑を返す竜也。 二人で笑い合った後、どちらからという訳でもなく……お互いが顔を寄せる。 そして、二人は唇を重ねた。 月明かりのスポットライトを浴びながら、二人は相手の事しか想っていなかった。 ゆっくりと竜也の唇から自らの唇を離したあやめが顔を赤くした。 「……これからもよろしくね、彼氏くん」 「よろしくお願いします、彼女様」 「どうして『様付け』なのッ!?」等と文句を言いながら、あやめは心から楽しそうに笑った。
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