第一話 幼き頃の道標

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※※※ つまらない。 楽しい。 だけど、やっぱりつまらない。 ※※※ 大和館長の右正拳突きが迫ってくる。 殺気がわたしに向かってくる。 でも……、 遅いよッ! その正拳突きを踏み込んで身体をよじって避けると、大和館長の無防備な側頭部が見える。 あれ? 隙だらけ? 勝手に、吸い込まれる様に、そこに向かって左回し蹴りを放つ。 ドカッ 足の甲に確かな手応え……足応え? ふらつく大和館長。そして、膝から崩れる様にその場に倒れた。 よし! 残心を決めた後、周りを見回す。 気が付くと、空気が凍り付いていた。 ……え? 誰もわたしを褒めてくれない。 慌てて大和館長に駆け寄る人。 美味しくないご飯を食べた時みたいな顔をしている人。 ビックリしたみたいに目を丸くしている人。 一番沢山いたのは……わたしをお化けを見ているみたいな目で見ている人。 誰かがわたしに向かって叫んだ。 『化け物ッ!!』 って……。 その時、やっと分かったんだ。 わたしは……わたしは……本気で武道に打ち込んじゃいけないんだ。 こんなに好きなのに……、 こんなに楽しいのに……、 こんなに……こんなに……つまらない……。
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