第三話 キスミーテンダー

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「あら、私に見られては困る雑誌でも買って来られたのですか? 竜也さん!」 一瞬、咲さんの左手に包丁が握られていたのが見えた。 「突き刺さり、抉り取れ……万華包丁」 次の瞬間、階段の上から津波みたいに包丁が押し寄せてきた。 「うわわ……!」 ビニール袋を庇いながら全身を気で覆い、包丁の津波をやり過ごす。 でも、一本の包丁がビニール袋の底を切り裂き、中身がこぼれてしまった。 ジュースのペットボトルやお菓子の袋が階段を落ちて行くけど、そんな物には目もくれず、一緒に落ちて行く雑誌を拾おうと手を伸ばす。だけど、指先が届く直前、雑誌は横から伸びてきた黒髪にさらわれてしまった。 「あっ!?」 そんな事が出来るのは、 「瑠璃さん!?」 咲さんが包丁を消して、リビングから姿を現した瑠璃さんに顔を向けた。 「ダメダメェ、咲ちゃ~ん。竜也くんだって健全な男の子なんだからぁ、Hな本の一冊や十冊位買ってくるよぉ」 そう言いながら、髪を縮めて拾った雑誌を手に取ってしまう。 「え? 違……」 瑠璃さんのとんでもない勘違いを訂正しようとしたけど、「私ぃ、良い仕事したでしょ~」と言わんばかりに満面に笑顔で雑誌を手渡してくる瑠璃さんを見て、僕は何も言えなくなってしまいました。
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