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「………」
「………」
あやめさんと向かい合わせに座りながら、しばらく二人共黙っていた。
あやめさん……怒っているのかな? それとも呆れているのかな?
手元のマグカップの中のカフェオレの泡を見下ろしながら、僕は深くため息をつく。
その時、不意にあやめさんの肩がビクッと跳ねた。
「竜也くん!」
「は…はい」
突然名前を呼ばれ、僕は反射的に返事をする。
「あ…あのね…………、大学で知り合った友達がいるんだけど、その二人がクリスマスに一人が寂しいからって彼氏を探そうと頑張っているの」
「はぁ……」
あやめさんが何を言いたいのか分からず、生返事をしてしまう。
「大学って色んな人と知り合えるから選り取り見取りって言っているんだけど……」
「ッ!?」
あやめさんの言葉に、あの雑誌に載っていたAさんの体験談が頭を過ぎった。
「そんな!」
思い切り立ち上がった拍子に椅子が倒れてしまい、その音が店内に響き渡る。
「ど…どうしたの? 竜也くん」
驚くあやめさんに僕は何も言えず、
「いえ、何でもないです」
椅子を起こして座り直す事しか出来なかった。
僕が椅子を倒した事で店内の視線を集めてしまったけど、すぐに僕達から興味を無くして元に戻る。
「………」
「………」
そして結局、僕達はまた黙り合ってしまう。
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