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「な…何でですかッ!?」
「さぁのー」
桔梗さんが首を傾げる。
「でも、あの娘から発せられる『気』が珍しく揺らいでいたのー。あれは内心穏やかじゃないと思うのー」
何気ない桔梗さんの一言が重くのし掛かって気がした。
※※※
「デートが上手くいかない?」
由美は講義開始前の僅かな間に、あやめに相談を受けていた。
由美の言葉を肯定する様にあやめがコクンと頷く。
「どうして?」
「……分からない。映画を見に行ったけど途中で寝ちゃうし、会話も盛り上がらないし……」
心底落ち込んでいるあやめを見て、由美は腕を組んで右手を頬に当てる。
「倦怠期と言うヤツかな? でも、付き合ってまだ一年経ってないんでしょう?」
再びコクンとあやめが頷く。
「うーん……」
真面目に考え込んでくれる由美に、あやめはポツリポツリと心の内を打ち明けていった。
「……デートが上手くいかなかったのは百歩譲って、いいの。本当は嫌だけど、たまには仕方ないと思うのよ。でも……」
あやめの脳裏に、楽しそうに会話をする弟とその友達(と本人が言っている)の桔梗の姿が浮かぶ。あの二人の方が余程仲の良い恋人同士に見えた。それに、雅人と会話をしていた時の竜也の楽しそうな顔が頭から離れない。
何より、そんな事をいちいち気にしている自分があやめは一番嫌だった。
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