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当然、グラスの中身はコーヒー牛乳ではない。そもそも、普通居酒屋にコーヒー牛乳なんて無いのだが、居酒屋という場所に初めて来たあやめがそんな事知る予習もなかった。
グラスの中身はカルーアミルク。甘くて女性にも飲みやすいが、アルコール度は意外に高い。
「……それでは、これを飲んだら帰ります」
注文した物に手を付けないのもお店に失礼と思ったのか、あやめは渋々グラスを手に取る。
本来ならこの時点でグラスの中のアルコール臭に気付く筈だが、長い時間周りで飲酒をされた為、あやめの嗅覚は現在アルコール臭に対して少し麻痺してしまっていた。
しかし、グラスに口を付けて一口飲んだ瞬間、さすがに気付いた。
「こ…これッ!?」
慌ててグラスから口を離す。
あやめ自身も、自分が飲酒する危険性を認識している。
(まだ……大丈夫! 水をいっぱい飲んで身体に入ったお酒を薄めれば……)
冷静にそう判断して、グラスを勧めた男に鋭い視線を向ける。
「み…水を……!」
「水? はい、これ」
男が透明な液体が入ったグラスを差し出す。
慌ててそのグラスを受け取ったあやめは、一息にその液体を飲み干してしまった。
その瞬間、喉から食道、胃に掛けて燃える様な熱が走り抜けた。
(こ…これ……日本……酒……!?)
「早く酔っちまえな」
男が口元を歪めた笑みを浮かべる。
「くだらねぇお前の彼氏より、あんたを可愛がってやるよ」
それが、まともな意識を持ったあやめが最後に聞いた言葉だった。
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