第一曲。『TAXI』

9/10
前へ
/43ページ
次へ
華奢な君の体を包み込む様に 抱きしめた。 冬の冷たい風が体を突き刺す。 それを忘れさせる位に 君の温もりを感じていた。 もう…叶わないとわかっているのに 気持ちが抑えられなくなる。 理性が飛んでしまう前に 俺から手を離した。 『もう…こんな時間だ。TAXI拾おうか。』 君は頷き、俺の後ろをついて来る。 大通りにたくさん止まっていた一台を捕まえて、彼女だけを乗せた。 不思議な顔をして窓越しに俺を見る。 「乗らないの?」 『俺、寄るところがあるから。』 「そっか…じゃあ…ね」 『うん。じゃあ…』 ―また、会おう…― その言葉がどうしても言えなかった。 結局言えないまま 彼女を乗せたTAXIが見えなくなるまで ずっとそこから動かなかった。 TAXIが夜の街へと消えていく。 ――本当は行くとこなんて無い。 俺は夜空を見上げ、静かに目を閉じた。 END
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加