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華奢な君の体を包み込む様に
抱きしめた。
冬の冷たい風が体を突き刺す。
それを忘れさせる位に
君の温もりを感じていた。
もう…叶わないとわかっているのに
気持ちが抑えられなくなる。
理性が飛んでしまう前に
俺から手を離した。
『もう…こんな時間だ。TAXI拾おうか。』
君は頷き、俺の後ろをついて来る。
大通りにたくさん止まっていた一台を捕まえて、彼女だけを乗せた。
不思議な顔をして窓越しに俺を見る。
「乗らないの?」
『俺、寄るところがあるから。』
「そっか…じゃあ…ね」
『うん。じゃあ…』
―また、会おう…―
その言葉がどうしても言えなかった。
結局言えないまま
彼女を乗せたTAXIが見えなくなるまで
ずっとそこから動かなかった。
TAXIが夜の街へと消えていく。
――本当は行くとこなんて無い。
俺は夜空を見上げ、静かに目を閉じた。
END
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